ウェルター級 ワン・マッチ 5分5R
「(2.080)ネイト・ディアス VS コナー・マクレガー(1.826)」(8/11時点 オッズ)
1.背景、注目点
2015年12月。10年間無敗のジョゼ・アルドをわずか13秒で切って落としたコナー・マクレガー。
その3ヵ月後、当時のライト級王者であるハファエル・ドス・アンジョスを相手に早くも2階級制覇宣言をぶち上げる。
王者アンジョスはこの防衛戦の2週間ほど前に怪我で欠場を発表。
このイベントの顔の一人であったマクレガーの欠場は許されない。代役の白羽の矢はシーザー・グレイシー・ジムの悪童、ネイト・ディアスへ立った。
本来行われるはずだったライト級はネイトの主戦場でもある。しかし8日間という短い期間での調整不足が懸念されるネイトを鑑み、マクレガーはウェルター級での試合を受け入れる。曰く「ネイト・ディアスには気持ちよく試合に臨んでほしい」
この試合は1R、マクレガーがネイトのあらゆるパンチに対し、カウンターを打ち込んでいくハイペースな試合。28発の強打を被弾したネイト、流血から明らかなダメージが見て取れる。その攻勢の裏、ネイトはマクレガーへ23発の強打を叩き込んでいた。
2R、試合はよりハイペースになる。右フックを当てたネイトがふらつくマクレガーを追い詰め殴る。33発の強打を当てたマクレガーに対し、ネイトがマクレガーを捉えた強打は実に54発。明らかにダメージを負ったマクレガーが選択したタックルは、ネイトにいとも簡単に潰され、首を絡めとられてしまう。
勝利を奪ったネイトは血だらけながら、なんとも涼し気な顔。マイクの第一声は、
「なに驚いてんだクソども(I'm not surprising Mother Fxxcers)」
ネイト・ディアスはわずか8日間という準備期間で、2010年から5年間無敗、14連勝中のコナー・マクレガーを撃破した。当時のオッズで、4.200倍ほどのアップセット。ネイトは1Rあれほど激しく打たれ、マクレガーの猛攻を認めながらも、「受けたことのない衝撃ではない」と語った。あれほど強烈な衝撃を顔面に受けながら、極めて冷静に反撃の機を狙っていたことが伺える。強打の雨の中、最後は自分が殴り勝つ瞬間を思い浮かべていたネイトに、技術の競い合いは勝負の一側面であり、最後に立っているもの・強いものが勝者なのだという事実を突きつけられる。
ネイトはコスト・パフォーマンスの良い右フックを丁寧に振り続けながら、マクレガーの消耗を待ち、そしていずれ消耗することを知っていた。対マクレガーに限らず、ネイトがこういう戦術を取ることは多い。この試合、マクレガーの消耗は思いのほか早かっただろう。
これはリスクを恐れず、常に最速で最大のリターンを獲得してきたマクレガーのリスクそのものの姿であると感じる。そして、いつものようにトップ・ギアで突っ走ったマクレガーをネイトが明らかに上回った試合だったと感じる。1R、確かに感じたであろうマクレガーの手応えは、彼に真の敗北をもたらしただろうか?
この手応えを元に、自らの存在価値を賭けるであろうマクレガーはどのようなパフォーマンスを見せるのか。この度は8日間でなく十分な準備期間を与えられたネイト・ディアス。マイケル・ジョンソンを初め、優れたストライカーを潰してきた悪魔のボクシングが、再びコナー・マクレガーに襲い掛かる。
――――「真か偽か」審判のとき、''ノトーリアス''コナー・マクレガーか
これを裁くは神ならず悪魔、''ネイト''ネイサン・ディアスか――――
アニバーサリー・イベントを凌駕する大人気のカード。
注目点は、
・前回と比べた両者のウェルター級での仕上がり。
・打撃戦における主導権はどちらに?
・コナー・マクレガーの修正点。ガス配分と戦術
・十分な準備期間を設けた、ネイト・ディアスのパフォーマンス
2.基本情報
2−1) ネイト・ディアス (シーザー・グレイシー・ジム)

タイプ:中長距離型ボクシング & 柔術。サウスポー。
年齢 : 31
身長 / リーチ : 183cm / 193cm
19勝 : 4 KO、 12 SUB、 3 DEC
10敗 : 1 KO、 1 SUB、 8 DEC
タイプ:中長距離型ボクシング & 柔術。サウスポー。
年齢 : 31
身長 / リーチ : 183cm / 193cm
19勝 : 4 KO、 12 SUB、 3 DEC
10敗 : 1 KO、 1 SUB、 8 DEC
かつてWBA世界スーパーミドル級のスーパー王者にして現在も無敗、アテネ五輪のゴールド・メダリスト・ボクサーであるアンドレ・ウォードのスパーリングのメイン・パートナーを、MMAファイターでありながら務めている。戦績を見ても柔術で相手を極める技術は申し分がない上、ライト級のトップ・ストライカーとも言えるマイケル・ジョンソンに対し距離の長いボクシングで圧勝。
キャリアにKOされたことはジョシュ・トムソン戦のみ。ネイトのボトムからの柔術の攻めを防御できるグラウンダー以外に、ネイトを仕留めるのは極めて難しい。
ネイトの負けはほとんどが判定負けだが、さらにそのうちのほとんどはネイトの軽くない腰をテイクダウンし、豊富なカーディオでトップ・キープをできる選手。生粋のストライカーなど、この類のパフォーマンスをできない選手にとって、ネイトは鬼門となる。
1対1、相手を直接的に制圧する対戦競技は、「ブレイク」という概念が存在する。リズムのリセットという大きな影響を持つ。サッカーであれ、卓球であれ、点数が入ればセットプレーから始まる。野球やアメフトはセットプレーそのもの。ボクシングではクリンチやダウンのあとは必ずセットプレーから始まる。空手や柔道も転倒や城外、ポイント奪取でリセットがある。
MMAの醍醐味であり、かつ厳しい競技である点は、リセットがほとんどないこと。やり方によって、一度築いた優位は覆し難く継続されるし、その不利を挽回するのも難しい。時にこの優位性は保守的、いや封建的と言えるほど絶対的なものとなる。
何が言いたいかというと、これを覆すにも、この主導権自体を奪取するにも、その為の布石となる攻撃(主にスタンディング・フェイズにおいて)の駆け引きがいかに苛烈で重要かということ。体力はもちろん、気力と閃き、策略を以ってこれに臨む。
長くなったが、ディアスは独特かつ強靭なメンタルを有する。苛烈な主導権争いにおいて相手の攻撃に精神を干渉されず、自分のペースを崩されることがない。言わば主導権争いにおいては、最強の防御力を持っているという頂点を持っているとパウンド・アウトは評する。
ダニエル・コーミエやフランキー・エドガー、ジョゼ・アルド、クリス・ワイドマンなどトップ・ファイターはほとんどこの精神力が異常に強い。長らく能力チャートでも、戦略とメンタルを同一視してきたのはそのため。
アンデウソン・シウバやコナー・マクレガーは、打撃において圧倒的優位を築く攻撃精度がある。防御力や威力速度リーチなどが関係するが、省略する。その優位性はもはや支配的とも言え、これに立ち向かう相手はすべてのアクションが裏目に出たかのように惑わされ、メンタルをも制圧される傾向がある。
ディアス兄弟はそういう相手をこそ好む。ネイトは前回、有限のガスを温存しながらギアを下げ、自らの打撃の速度をセーブした。これは大物釣りあげるエサに他ならない。タイミングが生命線であるカウンター。マクレガーは、2R中盤、唐突にギアをあげたネイトのパンチを痛烈に被弾しはじめる。打撃の優位を保てる距離、自らの支配域がなんの前触れもなくネイトの罠によって奪われた瞬間だった。
本当の悪魔はどちらか? 少なくとも、マクレガーの前にネイトが立つ限り、今まで通り支配者として君臨することはできない。
2−2) コナー・マクレガー (SBG・アイルランド)

タイプ:中長距離型ストライカー。サウスポー。
年齢 : 28
身長 / リーチ : 173cm / 188cm
19勝 : 17 KO、 1 SUB、 1 DEC
3敗 : 3 SUB
タイプ:中長距離型ストライカー。サウスポー。
年齢 : 28
身長 / リーチ : 173cm / 188cm
19勝 : 17 KO、 1 SUB、 1 DEC
3敗 : 3 SUB
フェザー級において188cmという驚異的なリーチを有し、精度と距離と威力を備えた必殺の左ストレートを持つ。この左ストレートひとつで、ほとんどの試合を制してきた。この距離を担保に、大胆に距離を詰めながら相手が回避不能な距離で左ストレートを振るう。距離を詰める過程で、相手が先手を取る場合はカウンターの左ストレートを優先させる。この間の被弾は少なくないが、リラックスしたステップで致命打を避けながら、リスクを取り大きなリターンを得るスタイルにある。
左ストレートを十分に当てるための布石として、回転系の足技で攻撃を散らすこともしばしば。足技自体の速度威力は高くないが、距離の支配に適した武器を選択している。メンデス戦ではボディ・キックという対レスラーへ最適と思われる三日月蹴りのような技を見せた。
優れたストライカーらしく優位時の支配力は圧倒的だが、前戦ではひとたび劣勢になると修正力、粘りの乏しさを見せた。
リーチを担保に前進、攻撃するスタイルから、自分よりリーチの長いファイターに対しては攻撃力=圧力が低下し、被弾する傾向がある。防御面は攻守を兼ねた左ストレートのカウンターに頼り、真っ向から瞬時に攻撃に転じるため相手の攻撃を丁寧にいなす場面は少ない。しかし長身のホロウェイ戦などでは、リーチの利を失い左ストレートの価値が下がったとき、積極的にタックルカウンターを見せて対応している。必ずしも一辺倒ではない。前ネイト戦でもタックルを見せたが、余力がなくレベルチェンジは潰され首を刈り取られた。
リーチのほかに左ストレートの価値を下げるようなサウスポーの相手にも攻撃力の低下を見せる。単純に左ストレートが最大の攻撃だからと言えるが、対サウスポーに有効な右フックなど、他の攻撃がやや弱い面ある。フィジカルはもちろん技術が乏しいわけではなく、ここまでくるとマクレガー本人の嗜好なのだろう。
今回、長身ボクサーとのスパーリングに打ち込むマクレガーの動画を、ツイッターのタイムラインなどで拝見した。右ボディフックを多用している点から、インファイトに臨む姿勢も感じる。距離の差を埋めるためか、ネイトのチェンジ・オブ・ペースに対し対応するためか、体格的不利を顧みず断続的にはインファイトを選択する可能性もなくはない。
最大の武器である打撃で負けたとなると、その実力は大きく否定される。リーチ差階級差など、泣き言以下にもならない。貧しい人生を、文字通り力強く前進し、己の拳で切り開いてきたマクレガー。その実績を否定されることを、彼の自尊心は許さない。
3.戦術予想
リーチで勝るうえ、巧みなボクシングを持つネイト。ワンツーと右フックを丁寧に出せばそれだけでマクレガーにとっては脅威。マクレガーの強打を前回経験したのも大きい。あとはペースの作り方だが、真っ向から速度で競り徐々に主導権を奪取するのか、前回のように機を伺い急激に速度を上げて打ちに出るか。
後者はリスキーだが、ネイトはキャリアで1度のKO負けしかないし、そもそもスロースターターでもある。序盤に被弾のリスクがあるが、前回同様マクレガーを仕留める可能性はこちらの方が大きいように思える。打撃で勝ればテイクダウンも十分にあるだろうが、打撃で押されている状況あるいは序盤では、テイクダウンは厳しいか。
注目はやはりマクレガーの戦術。前回に関しては、被弾したこと、よしんば被弾をよしとしてもKOできなかったことが問題だと思う。コンタクトの機会を多くしすぎることはリスクそのもの。これまではお釣りのくる大きなリターンで圧勝してきたが、これが得られなかった場合、死路となる。リスクを回避するにはコンタクトの機会を間引き、被弾数を時間で薄めるのがいいだろう。
探りをきっちり入れて、ネイトの打撃は一通り見たいところ。その上でリスクの低い攻撃を放つのが理想。長期戦でネイトに対してはローキックが有効だという意見も見かけるが、マクレガーがローキックで組み立てることはあまりイメージできない。おそらく本人の嗜好で、そういうファイターではないと思う。
前戦やアルド戦でも見せた、相手の脚へのストンピングのような蹴りは見せると思う。もっともコストパフォーマンスの良い、左ストレートとこの関節蹴りでどこまで組み立てられるか。
また余力を残しながら、マクレガーがタックルを織り交ぜるのではないかと予想。
4.展開予想、注目点
4−1)テイクダウンの可能性について
タックルのないネイトがマクレガーを序盤からテイクダウンするのは、アクシデントのようなものがない限りないと考える。後半マクレガーが疲れた場合、当然グラウンド・トップをネイトが取れば圧倒的な優位となるため、取れる場合は取るだろう。
逆に、試合が長引くなら被弾リスクを避けるため、マクレガーがテイクダウンすることは多いに考えられる。ボクシングではアウトボクサーがリセットのためにクリンチをするが、MMAでは攻防は連続し、クリンチは消耗戦となる。タックルでテイクダウンを短時間で取れるのであれば、トップで多少の時間をやり過ごし、ポイントと相手の攻撃機会を奪いつつリセットを望める。
マクレガーの打撃力とフィジカル、ネイトの腰の軽さを考えれば、さもありなんと予想。
4−2)ストライキングの優位はどちらか
前回、ラウンドをまたいで優劣が入れ替わったため、ここが最も予想が難しい点。ネイトのボクシング技術とリーチを鑑みると、マイケル・ジョンソンはじめ、大抵のストライカーが敵うレベルではない。しかし、ストライカーとしてのマクレガーが突出しているのも事実。ただしフェザーという階級で相対的にリーチが長かったのも、大きな要因の一つ。
ネイト・ディアスを前にしたコナー・マクレガーの攻撃力が激減するのは間違いない。しかし、戦い方に幅を持った場合、対処しきれない問題でもなさそうだ。マクレガーがタックルを織り交ぜ、左ストレートとの相乗効果を持たせた場合、マクレガーの攻撃力は飛躍的に回復する。これは十分に望めると考える。
あとは、今回ウェルター級としていかに体を作り込めるかが圧力に大きく作用するため、ここの影響も大きい。
前回ネイトが証明したものを鑑みると、純粋なボクシング力の優位ではネイトと見る。
5.まとめ
実際に、
・ネイトのボクシング技術
・リーチ差
・体格差(カーディオへの影響も
・前戦の内容
・準備期間
これらを鑑みると、打撃戦でのネイト・ディアスの優位を支持せざるを得ない。マクレガーの戦術が当日開示されない限り、ここの証明点は非常に大きい。
しかし、
・マクレガーの実績含む打撃力、決定力
・マクレガーのモチベーション
・タックル含むマクレガーの戦術修正への期待
・ウェルター級で戦うための準備期間
・ファンのバックアップ(判定は印象と観戦者の納得感が大事
これらを考えるとパウンド・アウト十分にマクレガーに期待してしまう。
現にツイート済だが、8/13(土)にコナー・マクレガー1.833倍へ 100 unit のベットが完了している。これに関しては、マクレガーに対してこれほど高オッズでベットできることがないほど実績があること、またプロモーター含め多くのものに勝利を望まれているであろうことが大きい。
しかしこの記事の書いている途中で、すでに書いた通りネイトの打撃力の優位を否定する材料が少なすぎる上、対抗策は不確定で希望的な面が大きい。
単純な技術予想のみがばっちりハマることなど、いや、よしんばハマったところで勝敗結果の予想を外すことなどざらにある。
今回は思考の簡略化と俯瞰を心掛け、あのマクレガーが打撃で連敗することはないだろうと結論づけておく。
万一、あまりにネイト有利予想へと思考が転換し、マクレガーへの期待が暴落した場合、ネイトにベットし直しコストを回収する手もあるため、なるべく試合前日までまた考えなおしてみたい。
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